5月の前半に、アデレードとパース間を往復ドライブしたわけですが、一番の目的はナラボー平原 (Nullarbor Plain) を横断することでした。
*往復することになった経緯は、「片道2,700キロを往復ドライブ!? レンタカー回送サービスを使えば片道で済んだかも」をご覧ください。
正直、今回ドライブに出かける前に下調べをほとんどしていませんでした。
「ナラボー平原」という名前は聞いたことがありましたが、平原だから何もない原っぱでしょ、ぐらいにしか考えていなかったぐらいです。何より、まだ車で走ったことがない区間を埋めたいというのが先にありましたので・・・。
ところが、オーストラリアのダイナミックさを改めて感じさせるドライブになりました。
ナラボー平原について
ナラボー平原は、南オーストラリア州のセデューナ (Ceduna) から西オーストラリア州のノースマン (Norseman) の間にまたがる大平原です。
「ナラボー」の名前の由来は、ラテン語のnullus (無い) + arbor (木) からきており、「木がない」という意味。その名のとおり、背の高い木がほとんどない広大な平原です。その広さは、東西約800キロ、南北約200~300キロ、面積約20万km2。
ナラボー平原を貫く道路は、1841年にナラボー平原を初めて横断した探検家エドワード・ジョン・エアー (Edward John Eyre) にちなんで、エアー・ハイウェイ (Eyre Highway) と呼ばれています。
今でこそ車の普及で簡単にナラボー平原を横断できるようになりましたが、一昔前は何もないナラボー平原を横断することは自殺行為と恐れられていたそうです。1976年に、南オーストラリア州のポートオーガスタから西オーストラリア州のノースマンまでのエアー・ハイウェイがようやく全線舗装されてからは、車のみならず、バイクや自転車、はたまた徒歩やランニングでなど、さまざまな手段でナラボー平原の横断に挑む人がいます。
ナラボー平原は、内陸を走るインディアンパシフィック号という鉄道でも横断できますが、グレート・オーストラリア湾の雄大な風景を望むには海岸沿いのエアー・ハイウェイを横断するに限ります。
ハイウェイ沿いには、100~200キロごとにロードハウス (ガソリンスタンドと宿泊施設が併設されたドライブイン) と呼ばれる建物が荒野に数カ所あるだけ。
そんなナラボー平原は一見、何もない荒涼とした大地なのですが、この平坦な台地は石灰岩が隆起してできた場所で、石灰岩の岩盤としては世界最大の地域。その下には太古に形成された地下洞窟や地底湖が横たわっている世界的に珍しい大地だそうです。
ナラボー平原横断ドライブ
今回のドライブのお供は普通車のレンタカー。
普通車で横断している人は少数でした。一部を除いて、ハイウェイから外れる道路は未舗装ですが、海岸線の展望台への道のりは何とか大丈夫でした。
セデューナはナラボー平原の玄関口。
前日にアデレードを出てセデューナに宿泊していたので、この日は早朝から出発。
余談ですが、ナラボー平原が広がるエアー・ハイウェイ沿いには世界一長いゴルフコース「Nullarbor Links」があります。南オーストラリア州 (SA) のセデューナと西オーストラリア州 (WA) のカルグーリ (Kalgoorlie) 間の18の町とロードハウスにまたがる全長1,365キロのゴルフコース。SA側から移動する場合は、ここセデューナが第一コースになります。ハイウェイ沿いの町の観光を活性化したいと考えてスタートしたそうです。
ペノン (Penong) にあったオーストラリア最大の風車。
建物が消え平原が見え始めました。灌木の中に背の高い木も建ち並んでいます。
「ナラボー平原:木のない平原の東端」の標識。ここから先がナラボー平原ということですが、厳密な線引きではないにしろ、確かに高い木が消え、辺りは灌木だけになりました。
道路脇にはいろんな標識がありますが、これはカンガルーとウォンバットとラクダの飛び出し注意! の標識。
ガイドブックなどにもよく掲載されているので、旅行者には人気の写真スポット。
カンガルーとウォンバットは夜行性の動物なので、夜間の車の運転は非常に危険。日が暮れる前に宿に入らないと、飛び込んできた動物と接触して、動物も車も大きなダメージを被ることになります。
・カンガルー・・・オーストラリアの代表的アイコンですが、残念ながらあちこちの道路際に轢かれた死体が転がってます。我が家の車も自宅周辺で1度衝突されたことがあります。
・ウォンバット・・・ずんぐりむっくりな見た目が超絶カワイイ大好きな有袋類。野生のウォンバットは1度死骸を見たことがあるだけです。
・ラクダ・・・オーストラリアにラクダ?とお思いでしょうが、実は野生のラクダが世界で一番多いのはオーストラリア。中西部の開拓時代に移動手段としてアラビア半島やインド、アフガニスタンなどから輸入されたラクダが野生化して繁殖したもので、現在、内陸部に100万頭以上生息していると言われています。しかし、牧畜用の資源を荒らしたり、水を求めて先住民族の居住地を襲撃するなど、悪影響を与えていることもあり、オーストラリア政府は駆除に苦慮しているのです。
野生のラクダにぜひ遭遇してみたいものだと期待していましたが、今回はその機会に恵まれませんでした。100万頭以上もいれば1回ぐらい目にしてもおかしくないよね? と感じますが、それだけオーストラリアは広いというこでしょう。
場所によっては、エミューに注意! の標識も多いです。エミューは割と見かけます。今回のドライブでも、道路を渡ろうとしていたエミューと接触しそうに。
ヘッド・オブ・バイト (Head of Bight ) への入り口。
ヘッド・オブ・バイト は、グレート・オーストラリア湾の最北部に位置する、ミナミセミクジラ (Southern Right Whale) の繁殖地になっており、ホエールウォッチングができる場所。6~10月頃がクジラを鑑賞できる期間です。
ここは、ヘッド・オブ・バイトのルックアウト。
このあたりは「バンダ・クリフ (Bunda Cliffs)」の東端でもあります。ここから西方向におよそ200キロに渡って高さ100メートル前後の大断崖が続いています。全長200キロの断崖は世界最長だそうです。石灰岩でできている海岸線はいたる所に洞窟や潮吹き穴があります。
圧巻なのは上空からの景色(写真お借りしました)。
大陸が突然切り落とされたような断崖の連続は壮観です。まさに「世界の果て」という表現がぴったりな光景。見渡す限り平坦なナラボー平原の広がりも確認できますね。フライトツアーで見下ろしてみたいものです。
給油に立ち寄ったナラボー・ロードハウス。ガソリンがなんと1.8ドル/リットルでした。一番高かったスタンドは2ドル/リットルでした。都市部は1.5ドル前後なので。
ナラボー平原には、100キロ~200キロ間隔でロードハウスがあり、ほとんどのロードハウスには、給油所、売店、レストラン、モーテル、キャラバンパークなどが併設されています。
セデューナからノースマンまでは町がなく、ロードハウスが頼みの綱になりますから、早めの給油とこまめな休憩、日暮れ前の宿の確保に心がけたほうがいいです。
復路にこのロードハウスのモーテルに一泊しました。夜空の星も早朝の朝焼けもきれいだった~。
州境手前のその名も「ボーダー・ビレッジ (Border Village)」。このカンガルーが手にしているのはオーストラリアのソールフード「ベジマイト」。この国を象徴する微笑ましいお姿。
各地にあるこういう巨大な建造物や彫刻のことを、こちらでは「ビッグ・シングズ (Big Things)」といいます。
きな男もビッグ・シングズが大好きで、見つけると必ず写真に収める習性あり。毎回、自分を入れて写真を撮ってと催促されます。大きさを比較するために、人が一緒に映らないといけないらしいのです。
州境では検疫があります。果物や野菜などの生モノやハチミツは没収されるので、事前に消費しておきましょう。西オーストラリア州から南オーストラリア州方面に移動する場合、検疫所は州境ではなく、なぜか480キロ先のセデューナにあります。なぜ? 自分の州に害虫や菌を持ち込まれたくなければやっぱり州境で検疫すべきでしょ、と思うのは私だけ?
セデューナを出発したその日の宿は「ユークラ (Ucla)」(走行距離500キロ)。
ユークラのロードハウスはガソリンスタンド、レストラン、モーテル、バジェットモーテル、キャンプサイト、ミニ博物館などがあり充実していました。海岸が近く高い丘のようなところにあるので見張らしも抜群。
車で下に降りて進むと、こんな場所に行き着きます。砂丘に埋もれつつある、今は廃墟となったユークラ旧電信局 (Eucla Telegraph Station) 。風向きによっては、完全に砂に埋もれてしまう日もあれば、このように顔を出しているときもあるそうです。
誰の仕業か、こんなマネキンも・・・ちょっと不気味。
ユークラで見た地平線に沈む夕日。乾燥地帯の潤い。
次の日は、ユークラを早朝に出発し、ナラボー平原の西端の終わりを告げる、700キロ先の町ノースマン (Norseman)を目指しました。
朝食に立ち寄った、マンドラビラ・ロードハウス (Mundravilla Roadhouse)の時差を示す時計 (右端のBar Timeは無視)。
今回この時差に混乱しました。
ナラボー平原を横断すると、3つの時間帯 (正式には2つですが) を通過することになります。
南オーストラリア州 (SA) の時間帯 (オーストラリア中部標準時) と、西オーストラリア州 (WA) の時間帯 (オーストラリア西部標準時) の他に、「オーストラリア中西部標準時」と呼ばれる非公式の時間帯がユークラ~コックルビディ間のロードハウスで使われているんです。
オーストラリア中西部標準時 (UTC+8:45) は、中部標準時 (UTC+9:30) と西部標準時 (UTC+8) の間を採っているので、SAおよびWAの時間帯とは、それぞれマイナス45分とプラス45分の時差があります。例えば、SAが8:00のとき、非公式の中西部標準時エリアは7:15、WAは6:30になります。なので、SAから非公式エリアに入ったら時計を45分遅らせ、非公式エリアからWAに入ったらまた45分遅らせることになります。WAからSA方面に移動する場合は逆に45分ずつ早めるということです。45分って半端ですよね。
このことに気付いたのは、ユークラ・ロードハウスのレストラン。レストランの夕食の営業時間が5時からだったので、その時間に向かったら、すでに食べているお客さんがいて、アレっ? て思ったんですよね。それで、テーブルに着いてふとレストランの壁の時計を見たら5:45頃をさしていて、これはなんか変! とネット検索したら、ユークラ~コックルビディ間には非公式の時間帯があることを発見。
マンドラビラ・ロードハウスにも上の写真のように、時間帯を示す時計が3つ並んでいて、真ん中の「OUR TIME」がローカルタイム。現地ではいまだに非公式の時間が流れているのです。
正式な時間帯ではないので、その非公式エリアにいてもスマホの時計はWAまたはSAの標準時しか表示されないので、知らないと混乱します。ナラボー平原を移動する場合はご注意を。といっても、平原で時間が気になることはほとんどありませんが。
ハイウェイでは大型の荷物を積んで片側車線を大幅に超えて走るオーバーサイズ・トラックと度々すれ違います。この荷物はなんだろう? 大型ショベル?
よく見かけるのは「家」。家まるごと、あるいは半分に切った家を運んでいるオーバーサイズ・トラックです。日本ではなかなか見かけない光景なので、初めて見たときは目が飛び出しそうでした。
通常、オーバーサイズ・トラックの数百メートル先を先導車やパトカーが走って、対向車にその存在を知らせます。それを見たら、反対車線の車は路肩に停車して、トラックが通過するまで待機する必要があります。
他にも、トラックの荷台の車両を複数台連結して走行する「ロード・トレイン」も頻繁に走っています。車両がとても長いので追い越しには要注意です。トラックの運転席は高い位置にあって見晴らしが利くので、優しいドライバーさんは追い越しのタイミングを教えてくれます。
オーストラリアの道路を運転する場合は、このようなルールを知っておくことは必須といえます。
ナラボー平原のような辺境の地の交通量は少ないですが、すれちがう車両で多いのはキャンピングカー、大型トラック、四駆、バイク、自転車の順でしょうか。今回も自転車で横断している人が少なからずいて驚きました。
コックルビディ・ロードハウス (Cocklebiddy Roadhouse)にあったお茶目な看板2連発。↓
ようこそコックルビディへ
・人口 8人
・セキセイインコ 25羽
・ウズラ 7羽
・犬 1匹
・カンガルー 1,234,567頭
ビールは超ぬるいし
食い物はまずいし
サービスも最低だよ~
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(それでもよかったら) どうぞ~
今日も1日元気でな~
ってな感じでしょうか。ちょっともじってみました。
ナラボー平原ドライブも終盤、オーストラリア一長い直線道路の入口にさしかかりました。
その名も「90マイル・ストレイト (90 Mile Straight)」。西オーストラリア州のバラドニア(Balladonia)とカイグーナ(Caiguna)間を結ぶ、146.6キロの直線道路です。けっこう坂はあります。この直線道路もドライブ途中で地図で見つけて知った情報。
直線道路を抜けてさらに260キロ走り、ノースマン (Norseman)に到着。途中、ナラボー平原の西端の標識を見逃してしまいました。いずれにしても、ノースマンまでくるとナラボー平原の横断は終わり。セデューナからノースマンまで2日間の横断ドライブでした。
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5月は日本でいう秋の気候なので、早朝や夜間は冷え込みますが、日中は熱すぎず、寒すぎずとても過ごしやすく快適なドライブができました。復路に風邪のような症状が出て、むせるような咳が続きましたけれど。
ナラボー平原は、単に車で通過するだけだと、何もない、つまらない原っぱと感じてしまう人が多いかもしれませんが、その土地の歴史や環境について予備知識を仕入れておくと見方も感じ方も変わってきます。今回、事前の情報収集を怠った自分を反省。帰宅してから、こんなところもあったんだと悔やまれるスポットもありました。
地形的にも環境的にも、世界一、オーストラリア一という場所が集まっているナラボー平原は、ダイナミックなオーストラリアを特徴付けている場所の一つであることは間違いありません。
非日常の環境と景観を体験できるスポットでした。